5メートル先のカレーラス
28日にFacebookに書き込んだように、ホセ・カレーラスのコンサートに行って久しぶりに音楽に触れ、体があつくなった。このブログの「余一会」の分類では、私の趣味に特化した文章を書いてきたので、ホセ・カレーラスのコンサートについて書くことは一向に構わないのだが、いざ書こうとして、ずいぶん長くコンサートに行っていなかったことに気がついた。
30年前に今の家に引っ越してから、びわ湖ホールと滋賀銀ホールに頻繁に出かけるようになった。びわ湖ホールではオペレッタをいくつか見たが、どれも面白かった。中でも『天国と地獄』を見たときには、ギリシャ神話の「神さまたち」の「人間臭さ」に、文字通り抱腹絶倒した。滋賀銀ホールでは、小ホールの良さを生かした「小品だけれど上質」のクラシック音楽に触れることができた。京都のコンサートホールも近いし、大阪の名だたるホールにも新快速で「ひとっ飛び」。
このように音楽に親しんだのは、おそらく、イギリス留学中に、頻繁にロンドンに出かけてクラシックのコンサートを聞いていたことから、私の身体全体に音楽が染み込んでいて、普段から音楽を求める気持ちが非常に強かったからではないだろうか。引っ越して間も無く訪ねてきたUSENの営業担当の言葉にコロリと参って契約した際のキーワードは「クラシックFMが聞けますよ」だった。「クラシックFM」というのはイージーリスニングのクラシックを流しているロンドンのFM局。BBC4もクラシックを流すチャンネルだった。
それに加えてロンドンのコンサートの料金はオペラとバレエ以外は大変リーズナブルだった。あの湾岸戦争の煽りを受けて外国人観光客が激減していた期間は、ロンドンのクラシックもミュージカルも、いい席が安く手に入ったので、一人暮らしの私にとっては、ロンドンに出て中華街でご飯を食べてウエストエンドで音楽に触れる、という幸せな時間を楽しむことができた。
そういった経験があったので、環境の整っていた新居に引っ越した当初は音楽を求めて動き回ったのだろうが、やがて日々の生活に追われるようになったためもあって、いつしか音楽の楽しみから遠ざかってしまったのだろう。
ようやく年金生活になり、カレーラスのような、いろいろな意味で手の届かなかった音楽に接することができるようになったのは、嬉しいこと。チケットを手に入れ、座席から手が届きそうなところにカレーラスの姿があった。
実に幸せな時間を過ごすことができた。