社会と監査 第1回 イントロダクション

時が経つのは早いもので、このブログで『百合野の監査論』を講義し始めて1年が経過しました。去年の2〜3月、私は、21日の卒業式に最後のゼミ生を送り出し、31日に定年退職を迎え、4月1日からは「毎日が日曜日」の生活を始めるうちに、6月のセミOB会主催の「退職記念パーティ」で一区切りつけるてはずになっていました。

しかし、安倍晋三首相(=当時)が2月27日に突然、全国の小中高校に3月2日から春休みまでの臨時休校を「要請」したため、日本中が大混乱に陥りました。今から思えば、首相にそのようなことをする権限があったのか実に疑わしい要請でしたが、誠におとなしい日本国民のDNAは、黙して安倍晋三の要請に従ったのでした。

それからの文字通り「熱病にうなされたかのごとき」1年半を振り返りますと、下のNHKのグラフが示しているように、この頃の感染者数の波は小さかったにもかかわらず全国で臨時休校措置がとられたために、その後の桁外れに大きくなった波の連続を安倍晋三政権が全くコントロールできないまま、我々はあたかもアウンサン・スーチーさんのような「無期限自宅軟禁」状態に置かれたかのような日常生活を強いられてきたわけです。

この間、安倍晋三&彼の政権中枢(最近の呼称は「あべすが政権」)は「緊急事態とは何なのか」および「緊急事態を解除するためにどのような政策をとっているのか」といった肝腎要のことについて全く何も説明しないまま、時間だけが経過しているわけです。

秋学期に入って2021年度の『百合野の監査論』を始めるにあたり、講義名を『社会と監査』としました。この科目は、2012年度まで京田辺キャンパスで開講していた2回生向けの監査論の講義名です。この講義では、受講生は商学部生に限定しませんでした。その目的は、監査論が単に上場会社の法定監査を説明する科目ではなく、もっと幅広く我々の日常生活と強く結びついている科目だということを学部の枠を超えた若い大学生諸君に知って欲しかったからです。

理工学部やスポーツ健康科学部の学生諸君も受講してくれました。理工学部生でありながら公認会計士試験に合格した学生さんもいました。彼はしばらく大手監査法人で働いていましたが退職し、そこで得たお金をもとに世界漫遊に出かけました。私が講義で話をしたことをちゃんと理解し行動してくれたと思っています。京田辺で講義をした甲斐がありました。

ということで、今年度の『百合野の監査論』は、昨年度よりもさらに社会に目を向けた内容で講義を進めたいと思っています。月曜日の5講時に私のブログを読みにきてくださると嬉しく思います。(同志社大学では「○時限目」という呼び方はしません。「○講時」と呼んでいます。特に同志社大学の学生諸君は間違えないように!)

今日は1回目ですので、昨年度と重なる部分もありますが、大学の講義について説明したいと思います。

くどいようですが、この講義が目指しているのは、「会計の領域」を超えてこの社会とくに日本社会と監査の関係を理解することです。そのために必要なことは、「教えてもらう」といった受け身の姿勢ではなく学生諸君が自分自身の頭で考えて自分なりの結論を出すという積極的な姿勢です。年配の方々は学生時代に経験されたでしょうが、教授が言っても専門書に書いてあっても、鵜呑みにすることなく自分の頭で検証したものです。下左のスライドに示したように、「大学生」は「高校5年生」ではないのです。下右のスライドを読んで高校までの「生徒」の意味を知ってください。

 

去年も説明しましたが、このブログを読んでくれる大学生諸君に、大学の「単位」の話をしておきましょう。大学の講義が今のように「半期制」ではなく「通年制」だったとき、体育実技は1単位、外国語は2単位、講義科目やゼミは4単位でした。体育実技は出席すればよいので出席単位の1が与えられるのに対して、外国語は出席に1単位と予習に1単位の合計2単位が与えられます。そして、講義科目やゼミの4単位は、出席の1単位と授業外学修に3単位が与えられるのです。ゼミの場合、グループ発表などの準備のために図書館で調べ物をしたりラーニングコモンズでプレゼンの練習をするので3単位分つまり270分の授業外学修をしなければならないことは理解できるでしょう。しかし、講義科目も同じなのです。大学では、授業に出席すれば十分なのではなく、授業以外に270分かけて本を読んだり調査したりディスカッションすることが必要なのです。そのために毎年の登録単位数には上限があるのです。講義以外の時間は、決して余っている時間ではありません。どうしても必要な人以外は、講義以外の時間をアルバイトの時間にしてはいけません。大学生としての生活が空洞化します。

また、「わかりやすく教えてください」とか「教科書は図書館で借りられるものを使ってください」といった希望を聞くことがあります。しかし、そもそも大学の講義は高校までの授業と違って内容自体が難しいものです。大学の教科書は「読めばわかる入門書」もありますが、「頭を使わないと理解できない専門書」もたくさんあります。日本語で書かれた本なのに、全く知らないことに出くわすことがあるでしょう。その場合、決して読み飛ばしてはいけません。何かで調べて理解して頭に入れましょう。スマホが大いに役立ちます。

今年の教科書と参考書は下のスライドのとおりです。『はじめてまなぶ監査論』は「読めばわかる入門書」です。『会計監査本質論』は「頭を使わないと理解できない専門書」です。いずれもAmazonで古本が安く手に入ります。

 

これで第1回を終わります。