トリプルAの怪

自民党の総裁選挙が終わった。

大方の予想に反して一次投票で岸田正雄氏が河野太郎氏に勝ったため、決選投票の結果は開票を待つまでもなく岸田候補の圧勝となった。それにしても、石破茂氏がこれほどまで派閥の領袖連に嫌われているとは思わなかった。河野+小泉+石破が横並びに坐って記者会見した当初は「小石河連合」などと呼ばれていたこともあってネガティブな印象は受けなかったが、日に日に「引き剥がし」などという普段はあまり耳にしない言葉が行き交うようになり、岸田+高市の「2・3位連合」が大っぴらになるや、「河野候補の敗色濃厚」ムードは誰の目にも明らかとなり、結果、そうなったのだ。

そして、今、人事が行われていて、逐一AppleWatchが通知してくれている。テレビでは「トリプルA」という言葉が行き交っているのだが、安倍+麻生+甘利の意味だとか。日本人は、先に書いた「小石河連合」やこの「トリプルA」のように即興の略語を作って使うのが好きだが、このような略語が重大な現実問題を軽く扱って肝心な部分を見えなくしてしまう恐れがあることを忘れてはならない。

「まん延防止等重点措置」を「マンボウ」と略した尾見茂会長が多方面から責められたのは、「まん延防止等重点措置」という真面目に対応しなければならない問題が「マンボウ」という言葉の軽さと可愛さによって覆い隠されてしまうことに対する危惧に由来するものだったと思われる。その後「マンボウ」という言葉はほとんど聞かれないようになってしまった。

私は総裁選挙に絡んで「トリプルA」という言葉に同様の危惧を覚える。

「トリプルA」の一人、甘利明は、睡眠障害を理由に国会から姿を消し、その後色々あったが、今回こうして何事もなかったかのように再び姿を表そうとしている。姿を消した時に求められていた説明責任を果たさないまま今再び姿を現すことは絶対に許してはならないだろう。

「トリプルA」の一人、麻生太郎は、記者会見のたびに記者を小馬鹿にした態度を特に責められないままその地位を守ってきているが、先ほどのニュースでは副総裁の地位に迎えられるとか。インタビューする記者の向こう側に国民がいることを認識していない麻生が副総理や副総裁のポストにつくことの意味する深刻な問題点が放置されることは絶対に許してはならないだろう。

そして、「トリプルA」の最後の一人、安倍晋三は、この10年近い「あべすが」政権で「ご飯論法」を駆使して日本国民を欺き続けた。その責任は何よりも大きいが、それに加えて、説明責任を果たさなかったこと、説明責任の証拠となる記録を改竄して隠蔽して破棄したことの責任の大きさは日本社会が思っているよりもはるかに大きい。安倍晋三が敬愛してやまないおじいちゃんである岸信介の戦争責任と戦後政治の責任に勝るとも劣らない大きな負の責任を安倍晋三は負っている。表舞台に出すことを許してはならない。

このような無神経な政治家たちが自分たちに都合の良い政治を再スタートさせようとしている状況において、彼らに「質問する権利=資格」を有しているジャーナリストの負っている責任=日本国民に対する責任は極めて大きいであろう。今うやむやになりかけている問題点を炙り出し、その責任を負っている大物政治家たちにきっちりと説明させることによって、小泉・竹中時代を出発点として日本国民が貧しくなってきたこの政治プロセスの転回点となる可能性にもしも火をつけることができれば、ネットニュースに逃避してしまっている層に対するアピールとなるのではないか、と、烏丸中学校に入って新聞記者を志した身としては、一抹の希望の火を灯している。