アカウンタビリティの重要性 比較のために(アカンタレ助教授の初海外珍道中紀行3)
イースターの休暇明けに不動産屋を訪れて、部屋を紹介してもらった。地下鉄ノーザンラインのベルサイズパーク駅から歩いて数分、ハムステッドヒースの南の小さな通りに面した3階建ての1階部分のフラット。ミニクーパーでやってきた家主のチーバースさんが一目でわかる人の良さそうなおじさんだったので、ワンベッドルーム(日本風に言うと2DK)のフラットを契約した。
ロンドンでの最初の1ヶ月で気がついたことをいくつか。
1 国と国ではなく、人と人の交流の大切さを感じた。フラットを探すためにメモを片手に家内とあちこちを見ていたら、手提げ鞄と細身の傘を携えたスーツ姿の絵に描いたようなイギリス紳士が近づいてきて、「お探しか?」(多分)と声をかけてくれた。こちらの英語がぎこちないためか、いきなり「ついてきなさい」(多分)と言って、フラットのドアの前まで連れてくれた。親切だった。イギリス人は戦争の記憶が残っているので基本的に「反日だ」というアドバイスは的外れだった。隣の老姉妹もテラスの向こう側に住んでいた老婦人も、ハムステッドヒースで犬を散歩させていたご夫婦もパブで隣り合わせになった若者も、誰一人として日本人に厳しい人はいなかった。
2 イギリスの郵便が「ものすごく」早く届けられることを知った。前日の午後に開いた銀行口座の小切手帳が翌朝7時半にドアの郵便受けに入ったので、私はマジで行員が出勤途中に届けてくれたのだと思ったほど。すぐに、イギリスではダイレクトメール以外は翌日に配達されることがわかった。だから速達も配達日指定郵便も、イギリスには存在しない。駅のキオスクや郵便局でバースデーカードその他の様々なカードを売っている理由が納得できた。記念日の前日にカードを買ってポストに投函すれば、翌朝配達されるのだ。しかも、定形郵便だの、郵便番号記入スペースだの、機械処理のための工夫などなしに、手書きの宛先に間違いなく翌朝届けられるというのは、実にすごいことだと思う。
3 横断歩道を渡ろうとすると、車は必ず停止した。100%間違いなく停止する。すごい!
4 夜10時ごろ、暗がりで「小銭を恵んでほしい」と寄ってくる酔っぱらいに絡まれると、必ずと言っていいほど、インテリ風の二十代の男性が割って入って酔っぱらいに説教する。多分更生させるのは無理だと思う状況でも、マジに諭すのだ。社会の健全性を感じた。ケビン・スペイシー版ではなくイアン・リチャードソン版の「野望の階段」の社会背景を垣間見たのだ。当時、自動車は壊れるのでガレージと呼ばれる修理屋さんがいっぱいあり、家電製品も壊れるのでレンタル家電製品屋さんがいっぱいあった。トッテナムコートロード近くの電気屋街には「SOMY」や「MATSUI」といった日本メーカーに似たブランドの看板がいくつもあった。7年後、ガレージもレンタル家電屋も姿を消していた。
5 銀行のキャッシュカードは24時間利用可能だった。日本の都銀の友人にこのことを話したら、「我々には可能でも弱小金融機関を助けるためにキャッシュディスペンサーを24時間稼働させることはできない」と説明された。
6 イギリスのビールがぬるくて微炭酸だという理由が理解できた。しかも、ぬるくて微炭酸でも、実に美味いのだ!帰国後、サントリーの某氏にエールビールを作ったら売れるのではないか、と言ったら「日本ではいかにしてキリンビールに味を近づけるかが勝負なんです」と言われた。
イギリス社会についていろいろな知識を吸収しつつ、ロンドン大学経済学部(LSE)とイングランドウエールズ勅許会計士協会(ICAEW)の資料を収集する初めての留学の日々がスタートした。
(5日にアップしたつもりが、・・・できていませんでした)