プーチンのウクライナ侵攻 3

今日のニュースで震えを覚えるほど驚き感動したのは、ロシア国営テレビ「チャンネル1」の夜のニュース番組の生放送中に、「チャンネル1」の編集者マリナ・オフシャニコワさん(と思われる女性)が、原稿を読むアナウンサーの後ろで、英語で「戦争反対」、ロシア語で「戦争止めろ。プロパガンダを信じないで。ここの人たちは皆さんにうそをついている」と書かれたプラカードを掲げて「戦争反対! 戦争を止めて!」と声を上げたというニュース。

 

ロシアでは偽情報を流すと最長禁錮15年が課されるという報道規制を強化する法律が成立し、これが外国メディアにも適用される恐れがあるということでロシアでの活動を一時停止していたBBCがロシアからの報道を再開したというニュースを聞いて「勇気があるなぁ」と思っていたが、ロシア国営テレビで働くジャーナリストのこの勇気ある行動を見て、プーチンのウクライナ侵攻はひょっとすると失敗するかもしれないという「一筋の光明」を見たような気がした。

さらに、マリナ・オフシャニコワさんは、決行前にメッセージを録画してSNSにアップしていた。

 

ジャーナリストの良心を感じさせる動画だが、遠くにいてこのニュースを流している日本のマスコミ関係者は、このニュースをどのように捉えているのだろう。

イギリス留学中にたまたま話す機会のあった日本のテレビ関係者に「イギリス人は『テレビなんて低俗で、見る価値はない』と言っているけれど、たった4チャンネルしかないイギリスのテレビは多チャンネルの日本のテレビよりずっと面白い。あなたはどう思う?」と聞いたところ「私もそう思う」との答えだったので、「じゃあ、どうして日本でもBBCやITVのような番組を放送しないの?」とさらに質問したことがある。彼女の答えは実にシンプルだった。「日本の視聴者のレベルに合わせて制作しているから」

そう言えば、日本のテレビでは事件や事故の現場から生中継される場面をよく見かけるが、イギリスでは事件や事故のニュース自体がほとんど流れない。生中継されるのは旧植民地を含む海外のニュース現場。もちろん事件や事故ではなく、政治や経済に関するもの。

お国柄の違いと言ってしまえばそれまでだが、学寮のバーで学生たちが議論しているテーマも、国内外を問わず政治や経済に関する「固い」ものが中心だった。

「固い」のは大学生だけではない。1983年の最初の留学のおり、当時同僚だった早稲田出身のキーツ研究家から託された彼の結婚式の写真を届けに行ったロンドンの古びているが高級感漂うマンションで初対面の我々の目の前で議論を始めた老夫婦の話題はアフリカの貧困問題だった。我々は美味しいシェリーを飲みながら、ただただ二人の主張を拝聴するばかりで、口を挟むことなど不可能だった。

相変わらずどのチャンネルも似たような「横並び番組」が放送されている日本のテレビは、さらに多チャンネル化の進んだ昨今の環境のもとでいつまで生き延びられると考えているのだろう。自分たちが「大本営発表」的ニュースを流していないかどうか、テレビジャーナリストの良心にかけて点検する時期に来ているのではないだろうか、と思うのは私一人ではあるまい。(「手遅れだ!」と叫ぶ誰かさんの顔が目に浮かぶ)