今また「東芝事件」

昨日、有終館の監事室でMacBookAirのインターネット接続が途切れないようにするために「NHK+」を選択したら、10日に公表された「東芝の昨年の株主総会が公正に運用されたか否かを調査した結果を報告する調査報告書」に関連して、取締役会議長(社外取締役)永山治氏が記者会見を開くと報じていたので、それを見た。永山治という名前に馴染みはなかったが、Wikiによると、奥さんが中外製薬創業者のお孫さんの由で主として中外製薬の経営に携わりながらソニーの社外取締役として取締役会議長を6年務めたあと、去年から東芝の社外取締役として取締役会議長に選任されているとのこと。画面からは実に誠実な人柄だという印象を受けた。

このブログやFacebookで何度も書いたように、私が定年間近になって同志社大学から博士号を授与された論文「会計監査本質論」の執筆を決意したのは、監査論研究一筋に学者人生を送ってきた身としては、俗に言う「東芝の不適切会計」問題の成り行きを見過ごすことが許せなかったからに他ならない。いつの間にか「東芝の不適切会計」という言葉は姿を消して、今では「東芝の不正会計」と呼ぶことが一般的になったものの、「現在進行形」だった当時は「断じて粉飾決算ではない」という結論に向かうためだけに「見え見えの糊塗」が平然と行われていたのだ。詳しくは拙著『会計監査本質論』(森山書店、2016年)を、今からでもいいので読んでいただきたい。ちなみに、今ならAmazonに1円から出品されている。

東芝の「不適切会計」問題については、検察が「東芝の会計処理はどこのメーカーでも行っている慣行であって粉飾ではない」と判断して立件しなかったために筋書き通りに「粉飾ではない」ということで一件落着した。しかし、これには重要な論点がごまかされていのだ。バイセル取引は一般的慣行だったとしても、東芝ではこのバイセル取引が利益操作の目的で使われていたのだ。東芝のバイセル取引は明らかに粉飾だったのだ。

企業の体質というものはそう簡単に変えることはできないのだろう。ここにきて、いわゆる「もの言う株主」を黙らせるための「東芝の不適切圧力」の存在が明らかになったのだ。それに加えて、今回のケースには経済産業省と当時の菅官房長官が深く関わっていたという記述が厳然と読み取れるのだ。(調査報告書の59ページ以下、全部で10箇所に出てくるので関心をお持ちの向きは東芝のHPを通して是非お読みいただきたい。全部で124ページあるが、案外速読できるように読みやすく書かれている)

それ以上に驚き呆れたのは、経済産業大臣も菅義偉も、ともに東芝の調査内容を否定する一方で、自分たちの領分については調査を行わないと言っていること。企業であろうと大学であろうと、民間に対しては「ガバナンス」「コンプライアンス」の充当性を認識するように伝達しながら、自分たちは蚊帳の外。言語道断だと思うけれども、多数の日本国民がこの事実に関心を持っていないことも由々しき問題だと思っている。

が、まだまだ書かねばならないことがあるので、今日はここまで。