アカウンタビリティの重要性 比較のために(アカンタレ助教授の初海外珍道中紀行5)
この初めての留学は、商学部の若手教員が大学の在外研究制度を使って1年もしくは2年の留学を申請する前に、まず商学部の予算で半年ほどの「お試し留学」をさせる制度を使ったので、とにかく後期の開講までには帰国しなければならず、慌ただしい毎日だった。平日は家内の作ってくれた弁当(サンドイッチ)を持ってLSEかICAEWに出かけた。夕方以降と週末は家内とロンドン市内放浪か日帰りの旅行を楽しんだ。その日々に気づいたいくつかの事柄。
6 日曜日にデパートやスーパーマーケットで買い物をしようと思っても、どこも開いていない。平日も、夕方の閉店時刻にはきっちり定刻に閉店する。不便なことこの上なかったが、やがて、店員さんにも自分たちの時間がある、あるいは必要なのだということが理解できた。
7 デパートやスーパーマーケットがしまっている時間帯にお店を開けているのはインド人や中国人の経営する小さな「何でも屋さん」だった。店主が人懐っこくて、ついつい話し込んでしまった。でも、小さな店で困ったのは、お釣りのもらい方。簿記を勉強した人は「加算式減算」を習っただろうか。足し算をしながら結果的に引き算をする、という計算方式のこと。例えば、5ポンド12ペンスの商品を買って10ポンド紙幣を出したとしよう。我々は即座にお釣りが4ポンド88ペンスだと暗算をするが、イギリスではそうはいかない。まず5ポンド12ペンスの商品を手渡しながら「5ポンド12」と言い、次に1ペンス硬貨を私の掌に置きながら「13、14、15、16、17、18、19、20」と言い、次に10ペンス硬貨を掌に置きながら「30、40、50、60、70、80、90、6ポンド」さらに1ポンド硬貨を掌に置きながら「7、8.9、10ポンド」と言って、にっこりする。その結果、私の手許には「5ポンド12ペンスの商品」に「4ポンド88ペンスのお釣り」があって、その合計が10ポンドになる。つまり、算をしながら結果的に引算をしていることとなる。この国では、間違っても小賢しく「10ポンド12ペンス」渡して「5ポンド」のお釣りをもらおうとしてはいけない。足し算の結果が「10ポンド12ペンス」になるので、相手は露骨に嫌がるのだ。(ところが、7年後の2回目の留学で私はびっくりするような経験をすることになる。)
8 夜は、映画館もミュージカル劇場もコンサート会場も、人・人・人で溢れている。10時ごろからは出てきた人たちが食事をするので、レストランが大混雑。そして、深夜12時ごろにお店から出てきた人たちが家路に向かうのは「路線バスに乗って」。最終バスの時刻が遅いので、ロンドン郊外の住宅地であろうと高いタクシー代を払わなくても帰宅できるのだ。夏場だと10時ごろまで十分に明るいのでゴルフやテニスを楽しむ人たちもいる。そのような人たちを見ていると「働くのは人生を楽しむため」だということがよくわかる。「日本人は勤勉」という言葉がウソ臭く思えるようになった。
9 バス停には名前がついていないが、料金は距離制なので最初は戸惑ってしまう。車掌さんから切符を買う際には自己申告して料金を支払うので、多少ごまかしても分からないように思いがちだが、実は車掌さんは乗客がどこから乗ったかをしっかり観察していて、過少申告すると、NO!と言い切る。途中で乗務員が交代しても、乗客はちゃんと自己申告する。監査は性悪説の国で発達した、とよく言われるが、イギリスは正直な国であった。(フランスからイタリアに向かうと、次第にインチキがまかり通るようになった)
10 たまたまレスタースクエアにいたら大群衆が騒いでいるので人の流れについて行ったら、オデオン・レスタースクエアで「007オクトパシー」の初上映日で、チャールズ皇太子とダイアナ妃を間近に見ることができた。王室と一般庶民の距離の近さにびっくりした。
初めての留学の日々はまだまだ続く。